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大阪地方裁判所 平成11年(ナ)703号 決定 1999年12月27日

主文

本件債権差押及び転付命令の申立てを却下する。

申立費用は債権者の負担とする。

理由

一  本件は、債権者が、民事執行法一九三条一項による動産売買の先取特権(物上代位)に基づき、別紙差押債権目録記載の債権に対する差押及び転付命令を求めたという事案である。

二(一)  民事執行法一九三条一項による動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使するに当たっては、被差押債権が当該動産の転売により生じたものであること、すなわち、被担保債権の発生原因である債権者債務者間の売買における動産と、被差押債権の発生原因である債務者第三債務者間の売買における動産とが同一であること(以下これを「動産の同一性」という。)を文書によって証明することが必要である。

(二)  本件においては、対象となる動産が生ビールであり、これは大量に生産され、債権者債務者間及び債務者第三債務者間で反復継続して取引されている商品である上、当該商品が債権者から第三債務者に直送されず、一旦債務者の下に納入されるという形態の取引が行われているのであるから、債権者債務者間で売買された商品と債務者第三債務者間で売買された商品とが同種・同量のものであっても、そのことのみでは、債務者が第三債務者に売却した商品につき、債務者が債権者から従前仕入れていた在庫の商品であったり、債務者が他の流通経路で仕入れた商品であるという可能性を払拭することができず、動産の同一性を証明するには足りないものというべきである。

そして、本件においては、債権者債務者間で売買された商品と債務者第三債務者間で売買された商品とが同種・同量のものであるということのほかには、動産の同一性を裏付ける事情が存しないのであるから、動産の同一性を認めるに足りる証拠がないといわざるを得ない。

この点につき債権者は、鮮度が要求される本件商品の特殊性、本件取引における流通経路の実態及び債権者従業員が作成した報告書(甲六)によって、動産の同一性を証明することができる旨主張する。

しかし、債権者の主張する本件商品の特殊性や本件取引における流通経路の実態に照らしても、なお債務者が第三債務者に売却した商品につき、債務者が債権者から従前仕入れていた在庫の商品であったり、債務者が他の流通経路で仕入れた商品であるという可能性を払拭できないことに変わりはないから、これらの事情を考慮しても、本件につき動産の同一性を証するには足りないというほかない。また、甲六は、債権者の従業員により事後的に作成された文書であり、動産の同一性に関する部分も、客観的な資料に基づいて作成されたものではないから、それ自体証明力を認めることができない。

(三)  以上によれば、本件動産売買に基づく先取特権の存在を証する文書が提出されたということはできない。

三  従って、本件申立ては理由がないからこれを却下し、申立費用につき民事執行法二〇条、民事訴訟法六一条を適用して、主文の通り決定する。

(別紙)担保権・被担保債権・請求債権目録

一 担保権

下記二記載の売買契約に基づく動産売買先取特権(物上代位)

二 被担保債権及び請求債権

金一、五九九、六一一円

債権者が、平成一一年八月二八日から同年一〇月二二日までの間、債務者に対して売却した別紙売買一覧表(1)及び(4)記載の商品の売買代金債権

なお、別紙売買一覧表(1)及び(4)の売買のうち平成一一年八月一一日から同年九月一〇日までの売買についての弁済期は同年九月三〇日であり、同年九月一一日から同年一〇月一〇日までの売買については、弁済期は同年一〇月三〇日であり、同年一〇月一一日から同年一一月一〇日までの売買については、弁済期は同年一一月三〇日であるところ、債務者が平成一一年一一月五日破産申立をしたことにより期限の利益を喪失したものである。

売買一覧表(1)(4)<略>

差押債権目録

金一、五九九、六一一円

但し、債務者が第三債務者に対して有する下記債権のうち頭書金額に満つるまで。

債務者が平成一一年八月二八日から同年一〇月二三日までの間、第三債務者に対して売却した別紙売買一覧表(2)、(5)記載の商品の売買代金債権

売買一覧表(2)(5)<略>

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